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2026.03.13

【鍼灸コラム】9 使う鍼の本数について

 第9回は、使う鍼の本数について。
 患者さんにとっては、何本鍼を使ってくれるかではなくて、症状軽くしてくれるかどうかが大事ですから、ある意味どうでもいい話と言われればそうかもしれません。ただ鍼灸師としては、使う鍼の本数は施術スタイルと密接に結びつきますから、避けて通れない問題の一つであることも確かです。
 使う鍼は一本だけでいいのか、十本くらい使わないと難しいのか、少し前に流行った「ハリネズミ美容鍼(R)」のように百本近く打たないときれいにならないのか--これについては「鍼灸師の先生のスタイルによる」としかお答えできません。これは鍼灸院や鍼灸師との相性の問題でもあるということで、常々わたしは「鍼灸院を選ぶのはラーメン屋を選ぶのに近い」と言っています。
 はりねずみのハリー鍼灸院では何本の鍼を使っているのか?
 基本的に、全身施術については通常5~7本です。場合によって14-5本くらいまで使うことはあります。ただし、鍼を打つ場所は100か所近くになります。
 美容鍼(顔鍼)は美容鍼専用の鍼を25本使います。
 一方、首の寝違えやぎっくり腰(急性腰痛)といった、施術時間が10分程度の部分施術については1本しか使いません。せいぜい2-3本です。
 一般的に、置鍼(ちしん/おきばり)と言って、一定時間鍼を刺し入れた状態にして筋肉の緊張を緩和させる技法を採り入れると、どうしても一定数の鍼が必要になるかと思います。

 本題はこのへんにして、鍼の本数について思い出話をいくつか。

 鍼灸師になるために通っていた兵庫鍼灸専門学校には「臨床見学」という一種の課外授業がありました。これは土日の午前中に(たまに午後だったり一日中だったりもありました)、兵庫県鍼灸師会に所属するベテランの鍼灸師の先生の治療見学をするというもので、受けても受けなくてもいいというものでした。わたしは無料で見学できる貴重な機会だからと、13くらいの鍼灸院で勉強させていただきましたが、5本以上使う先生は少なかったように思います。ちなみに、わたしのように100か所近く鍼を打つ先生も2を割くらいだったように記憶しています。
 その臨床見学で、ある先生が昼休みのとき、わたしに言ったことは今も覚えています。
「鍼10本使ったら、鍼1本よりも10倍のコストがかかるからね。経営のことも考えないと鍼灸院は続かない」
 思えば、1本しか鍼を使わない先生は、施術時間も短く、気持ちのいいほど(ひとによっては物足りないと感じるかもしれません)あっさりしていました。最後に「よっしゃ、これで終わり!」とポンと患者さんの体を叩いたりするんですが、あれで本当に治っているのかな、魔術はある種の詐術かもしれないと思いました。
 今思えば、神業が詐術のようにしか見えなかったわたしの見識不足でしかなかったのです。当たり前の話ですが、自分よりもずっとできる先生がいて何ら不思議はありません。自分はこれでもひとかどの鍼灸師だなどと思い上がった時点で進歩は止まります。残酷なまでの真実です。このコラムを書いている2026年で臨床経験18年になりますが、18年鍼を打ってきたことがそれなりにでも鍼が上手であることの証明にはなりません。

 鍼灸の学生時代、ある鍼灸の勉強会に参加したことがありました。そのとき、年配の鍼灸師の先生に言われたこと。
「黄帝内経(こうていだいけい:東洋医学のバイブル)にも『少にして精』と言うやろ。いかに少ない箇所で、いかに問題の場所から離れたところに鍼を打って治すかどうかが、東洋医学の妙味やないか」

 海外在住経験の患者さんに言われたこと。
「先生(本木)の打つ鍼って、ニューヨークの鍼灸院みたいな打ち方ですよね」 
 

〇 

 鎌倉時代、「南無阿弥陀仏」というお念仏を唱える浄土宗や浄土真宗が生まれました。そのとき、一念か多念かという論争があったそうです。曰く、念仏を一度唱えれば救われるのなら何をしても構わないだろう--そういう勘違いをする不届き者がいたようです。一方で、たくさん念仏を唱えなければ救われない、唱えた分信仰していることになるからだという者もいました。それに対して浄土宗を開いた法然上人は、六万七万唱えても粗略に唱えていては効果がない。信心の強さが問題だ答えられたそうです。
 煙に巻かれたような気がしないでもないですが、要するに、回数ではなくて信心の純度や強度が問題だということです。  
 鍼施術で使う鍼の本数に通じている話のように思います。
 何本使うかよりも、効く鍼ができるかどうか。患者さんを癒せる鍼が打てるかどうか。
 1本の鍼、1か所だけの施術で症状がよくなるならそれでよし。
 わたしの場合、効く鍼をするためには、少なくとも今は、一定数の鍼と施術ポイントが必要だということなのだと思います。今後、どんな施術スタイルになるのか分かりませんが、どんな形をとろうとも、患者さまの症状を少しでも軽くできるよう研鑽を積んできたいです。
 患者さんは、痛くて、しんどくて、つらい現状を変えたくて、自分を変えたくて鍼灸院に来られるわけですから。

(終わり)

2026.03.13

土日開院のお知らせ 2026年3月14日(土)・15日(日)

2026年3月14日(土)・15日(日)
10 ~20時開院します。

2026.03.10

【鍼灸コラム】8 「刺さない鍼」小児鍼のお話

第8回は「小児鍼」について。
今回は、「小児鍼(しょうに はり)」について。
よく「刺さない鍼」、あと「虫はり」という言い方もあります。「疳(かん)の虫=小児神経症」に効く鍼、という意味です。
一般的にイメージされる「鍼」は、皮膚に刺入するタイプですが、小児鍼は皮膚をこすったり圧したり叩いたりするタイプです。初めて小児鍼の道具を見たり施術を受けたりすると「これが鍼なの?」と驚かれる方も少なくありません。
「小児鍼」にはいろんなものがあります。イチョウの形をした「いちょう鍼」が有名ですが、先の丸い「円鍼」、ローラー状になっている「ローラー鍼」、皮膚を傷つけるほどではないとげが入った「梅花鍼(ばいかしん)」、鉛筆みたいな「てい鍼」などです。他にもいろいろあります。変わった小児鍼の一つに、ガラス管の中に上下に動く鍼が入っている「振り子鍼」と言うものがあります。その名の通り、ガラス管を上下に振ると中の鍼が振り子のようにいい感じに出たり入ったりして皮膚を刺激します。いつだったか、東京の神田にある鍼の専門店「三景」さんで購入しましたが、今、わたしと同年代のひと(2008年に免許を取りました)で実物の「振り子鍼」を持っている先生は少ないと思います。聞いたことがないという先生もいるかもしれません。
 最近は魚や猫の顔の形をした小児鍼も作られていて、はりねずみのハリー鍼灸院で一番多用しているのは魚の形をしたステンレス製の「メタルフィッシュ」(だったかな?)という小児鍼です。すごく便利で、「いちょう鍼」や「振り子鍼」を使う必要がないほどです。
「メタルフィッシュ」や「振り子鍼」を見たい方は、一度はりねずみのハリー鍼灸院へ施術を受けに来てください。

 小児鍼は、江戸時代の後期、大坂(大阪)で発達したというのが通説です。当初はモグラの爪を使っていたそうですが、時代がくだるにつれ、いろいろな形のものができました。
 
 問題は小児鍼は本当に効くのか? 刺さなくても効くのか? です。一般的には「乳幼児から学童期まで」のお子さんに施術することが多いのですが、それはなぜなのかについて納得のいく説明がありませんでした。そこでわたし(本木晋平)は、この問題に取り組んで、2018年に論文を書きました。(本木晋平『「小児はり」はなぜ「特に小児に効く」のか』、『医道の日本』2018年11月号、PP.116-122)びっくりするほど反響がありませんでしたが、少なくとも2026年3月時点において、なぜ小児鍼が特に学童期までに有効で、それ以降はそうでもなくなってくるのかという問題について、わたしの論文よりも解剖生理学的観点からきっちり説明している論文はないと自負しています。繰り返しますが、びっくりするほど反響がなかったのですが。電話一本かかってこなかった。
 ともあれ、論文の要点をかいつまんで言うと、確かに学童期までには小児鍼が特に効くと思われます。その謎を解く鍵は「スキャモンの成長曲線(発達曲線)」と「第二次性徴」にあるということです。
 前者から言うと、実は神経系の発達は生まれてすぐ成人に迫るほど早いのに対して、皮膚や筋肉、血管、臓器などの発達は比較的ゆっくりです。一定の面積の皮膚に分布する神経(感覚受容器)の数(わたしは「神経分布密度」という概念を導入して説明しています)は、子どもの方が大人よりもずっと多い。大人よりも子供の方がずっと敏感だということです。
 そして後者。比較的ゆっくり発達する神経系以外の器官は、第二次性徴を迎えてから本格的に発達します。一般的に第二次性徴と言うと生殖器の発達という理解だと思いますが(「性徴」と言うくらいですから)、実際は他の器官も、性ホルモンが発達させていくわけです。筋肉や皮膚が増え、さらに筋肉と神経の接合が本格的に始まります。筋肉の量が増えると同時に筋力も増すわけです。イメージ的に言うと、筋肉の量が増えるのは電話回線が増えるようなものです。でも、開局手続きしなければただのゴミです。開局手続きに相当するのが「神経-筋接合」ということになります。ともあれ、ある程度筋肉の量が増え、神経との連携も密になってくると、筋肉を直接刺激する刺し入れる鍼の方が勝負が早い。そういうわけで、学童期=思春期以降になると小児鍼よりも一般の鍼の方が効いてくるのです。(詳しくはわたしの論文をお読みいただければと思います)
 とは言え、もともと筋肉が少ない方、筋肉量が少なくなってきた高齢の方など(ちなみに、男女問わず、なぜ中年以降になると筋肉が衰え、かつなかなか筋肉がつかなくなるのかというと、性ホルモンの分泌が少なくなるからです。海外ではテストステロンを補充する治療法があったりします。日本でも、自費になりますが、テストステロンを処方してくれるクリニックがあります)、小児鍼が効くということは考えられます。一方で、アスリートのスポーツ障害などでは小児鍼のみで治すのは難しいところもあるのかなと思います。わたしの技術不足の問題もあるかもしれませんが。
 最後に、小児鍼の施術の仕方について。たいていは「フェザータッチ」と呼ばれるように軽く軽く刺激をしていきますが、わたしは割としっかり刺激していきます。もちろんそれには理由があり、全員そうするものでもありませんが、普通の鍼と同じく、鍼灸師の先生によって小児鍼のやり方は違います。持っている鍼も違います。思い出すのはわたしの恩師の一人である恵美公二郎先生で、彼は「くるま鍼」という独特な形の小児鍼を使われていました。「振り子鍼」と同じく、今は購入することはできません。ヘンミ計算尺などと同じく、もしかしたらメルカリみたいなところで見つかるかもしれませんが。実を言うとわたしも一時期「くるま鍼」を持っていたのですが、失くしてしまいました。もっとも、負け惜しみではなく、「メタルフィッシュ」で十分間に合っているので、こうして書いている割にはそれほど残念には思っていません。「くるま鍼」とは縁がなかったんだなと思う程度です。とは言え、よそにはない鍼を使っているというのは、お商売というか経営的には一つのウリになるのは間違いありません。わたしはそういう売りこみ方が絶望的なまでに下手で、自分の残念なところは、むしろそういうところかもしれませんーーこういうことを書いて公開してしまうことも含めてです。
 まあ、隠そうがオープンにしようが、できるものはできるし、できないものはできないです。鍼灸に限ったことでもありませんし。

(終わり)

2026.03.06

土日開院のお知らせ 2026年3月7日(土)・8日(日)

2026年3月7日(土)・8日(日)

10 ~20時開院します。

2026.03.02

火曜日臨時開院のお知らせ 2026年3月3日(火)

2026年3月3日(火)10〜20時 臨時開院します。

2026.02.28

【鍼灸コラム】7 鍼のお話 その2 -鍼の打ち方について-

第7回は「鍼」について その2です。
今回も、2つのトピックを取り上げます。鍼を打つときの角度と深さの話です。

〇鍼の打ち方 角度の話
鍼を打つとき(一般的に、鍼は「打つ」と言います。あるいは刺入(しにゅう)すると言います。「刺す」ということはほとんどありません。少なくともわたしは職業鍼灸師から「鍼を刺す」という言い回しを聞いたことがありません)、どの角度で打つかは結構重要です。
大きく「直刺(ちょくし)」「斜刺(しゃし)」「横刺(おうし)」の3つがあります。
だいたいの感覚ですが、「直刺」は皮膚面に対してほぼ90度。「斜刺」は皮膚面に対して45度前後、「横刺」は皮膚面に対して30度以下といったところでしょうか。
打ちやすいのは直刺ですが、場所によっては横刺を使わないと難しい。臨床上の感覚で言うと、頭部や関節周り、靭帯付近は横刺ができると重宝します。また経験を積んでいく上でできるようになります。(自主練習は必要ですが)上手な鍼灸師とは横刺が上手な鍼灸師と言ってもいいのではないかと思います。(早弾きできるギタリストが上手いギタリストと思われるようなものです)
横刺は、鍼に加える力がぶれると、すぐに鍼が曲がってしまったり痛みが出やすくなったりするので、技術的には習得に時間がかかります。
それなら直刺は楽なのかというと、それがそうとも言えないところが鍼の奥深いところです。一般論で言うと直刺が一番楽ですが、これも、いかに皮膚面に対して垂直方向の力を鍼に加えられるか--鍼の向きに沿った力を与えられるかどうかが勝負です。あと、便利な反面、意外と使えるところが大きな筋肉だけだったりします。
最後に斜刺。中途半端な角度ですが、これが大活躍するところが仙骨のツボです。お尻の間、背骨の下にある、骨盤を形成するうちの三角形の骨です。仙骨孔という神経が通る穴があいていますが、そこからは仙骨神経叢(せんこつ・しんけいそう)という副交感神経が走っているので、ここを上手に刺激できると泌尿器・生殖器まわりのトラブルや、あと一部の坐骨神経痛の改善などを期待できます。「斜刺の『ドル箱』」と言ってもいいかもしれません。更年期障害や不妊症・PMSなど、あと過活動性膀胱やLOH症候群などでも、成績は悪くありません。

〇どこまで鍼を刺し入れるべきか? 浅刺しと深刺し
 わたしの母校・兵庫新旧専門学校の創設者で恩師だった故・佐伯正史先生は「灸は二次元だけれど鍼は三次元だから(奥が深い、やれることがたくさんある)」とよく言われていました。
 俗に浅刺し、深刺しと言います。
 どのへんが境界線になるかは、ひとそれぞれかもしれませんが、だいたい15~20mmあたりが基準になるかと思います。中には超浅刺(ちょうせんし)という、数ミリとか、下手をすると1-2ミリくらいしか鍼を刺し入れないという先生もいらっしゃるようです。
 わたしはというと、40mm~50mmしっかり刺し入れます。一般的には「深刺し派」ということになります。
 浅刺し派も深刺し派も、それなりの理屈というか、言い分があります。どちらも共通しているのは、その深さが最適だということです。なお 深刺し派の言い分として、深く打てるなら浅くも打てる、があります。浅くやってくれと言われれば、いつでも浅く打てます。逆はなかなかそうはいかない。 
 正直なところ、このへんは好みの問題もあって(わたしは常々鍼灸院はラーメン屋と似ていると思っています)、患者さんの方でも浅刺し好みと深刺し好みに分かれ、はりねずみのハリー鍼灸院には自然と深刺し好みの患者さんが集まることになります。もちろん、例外はあります。
 一般論かつ個人的印象で恐縮ですが、深刺し派の鍼灸師は少ないと思います。今日本で主流の東洋医学を謳う鍼灸院の鍼施術は浅刺しです。また、鍼灸の専門学校や盲学校などの鍼灸師養成機関で行われる実技実習では、医療事故防止の観点から深刺しを推奨しないという事情もあります。
 わたしが兵庫鍼灸専門学校で勉強した2005~2008年、お尻でも50mm入れることはなかったです。足の向こうずね(解剖学的には「前脛骨筋 ぜん・けいこつきん」と言います)にある「足三里」という有名なつぼがありますが、そこで30mmだった記憶があります。40mmめいっぱい入れるよう指示されたことはありません。
 そうは言うものの、浅く打った方がいいケースというのももちろんあります。何でもかんでも深く打てばいいというものではないのが、鍼の、ひとの体の奥深さです。

(終わり)

2026.02.25

土日開院のお知らせ 2026年2月28日(土)・3月1日(日)

2026年2月28日(土)・3月1日(日)

10 〜20時開院します。

2026.02.25

臨時休診のお知らせ 2026年2月26日(木)・27日(金)

私事都合につき、2026年2月26日(木)・27日(金)臨時休診します。ご迷惑をおかけします、ご了承ください。

2026.02.20

火曜日臨時開院のお知らせ 2026年2月24日(火)

2026年2月24日(火) 10~20時 臨時開院します。

2026.02.19

土日祝開院のお知らせ 2026年2月21日(土)・22日(日)・23日(月祝)

2026年2月21日(土)・22日(日)・23日(月祝)
10~20時開院します。

2026.02.19

【鍼灸コラム】6 鍼のお話 その1 -「鍼」と「針」の違い日頃使っている鍼について-

第6回は「鍼」について その1です。
ここでは、2つのトピックを取り上げます。

〇「鍼」と「針」はどう違うのか?
 一緒と言えば一緒なんです。
 もっと言えば、「針」でいいと思うんです。
 個人的には。
 どちらにしたって、医療用の針金を指しますから。
 ただ、職業鍼灸師の立場からだと、明確な違いがあると言わざるを得ません。
 一般論であり、もちろん例外はあるのですが、「鍼」は日本の鍼灸、「針」は中国の針灸を指します。
 最近は中国針灸を採用している針灸院も「〇〇鍼灸院」という看板を掲げているところが増えているように感じます。
 あと、「鍼」だと、特別な針を使っている感じ、雰囲気を出せるのも事実です。
 注射針、ふとん針、裁縫針、どれも「針」。
 鍼灸施術で使用する針金だけが「鍼」です。
 嘘ついたら飲ませるのは「針千本」であって、「鍼千本」ではありません。
 日本鍼灸の鍼と中国針灸の針はどう違うのかというと、鍼そのものの構造はもちろん、その打ち方、さらには病気の治し方・治療理論が違います。
 ちなみに、わたし(はりねずみのハリー鍼灸院)の鍼の打ち方は、伝統的な日本鍼灸(東洋医学)の打ち方とはまったく違います。徹頭徹尾、解剖学や生理学をベースにした打ち方です。実際、アメリカ在住経験のある患者さまから「ニューヨークの鍼灸師さんみたい」と言われたことがあります。「ニューヨークで開業すればよかったかも」と一瞬気持ちが揺らいだほどです。
 もう一つちなみに。「鍼」も「灸」も常用外漢字で、新聞などではルビを振られます。
 普通教育でも習わないので、たとえば領収書を切ってもらうとき、「鍼」や「灸」の漢字を間違えられることもあります。たまにスムーズに「ハリー鍼灸院」の宛名をスムーズに書かれる店員さんがいるとうれしくなります。鍼灸院に通われているか、通われていたことがあったのかなと想像してしまいます。
 コロナ禍の前後だったか、素晴らしい日本鍼灸を世界に広げようと運動されていた鍼灸師の先生がおられました。運動そのものは否定はしませんが、世界に発信する前に、「鍼」「灸」を常用漢字に含めてもらいたいなと思ったものでした。鍼灸に縁のない日本人の多くは「鍼灸」の漢字が書けないのですから。さらには、「しんきゅう」か「はりきゅう」か迷われている方もいます。一般的には「しんきゅう」と読みますが、「はりきゅう」と読んでも全然構わないと思う一方で、「はりきゅう」と読んでもらいたいときには「はりきゅう」と平仮名で書くことにしています。
 脱線ばかりして恐縮です。中国針で思い出がある先生は、わたしに打ち方を教えてくれた佐伯正史先生と惠美公二郎先生です。佐伯先生はお亡くなりになりましたが、佐伯先生の中国針の打ち方は巧みでした。惠美先生は東洋医学と中医学を状況に応じて使い分ける器用な先生で、少なくともわたしにはその器用さはありませんーー何かのときのために中国針を1ケース100本置いてはいますが、西宮の門戸厄神に開業してからの10年間で2ー3本しか使ったことがありません。使っている当座は「ここは体の深部の筋肉(深層筋と言ったりインナーマッスルと言ったりします)にまで届く中国針を使うしかない、念のために取り寄せておいてよかった」と思いましたが、打ち方を工夫すれば、通常使っている日本の鍼でも十分対応できたはずだと、今このコラムを書きながら反省しています。まあ、頑固な腰痛は良くなったので、最善な手段ではなくともよかったとしましょう。 

〇日頃使っている鍼について
 わたしが日頃使う鍼は、寸3の3番と、寸6の5番。痛みに敏感な方向けには寸6の1番のステンレス製のディスポーザブル鍼(使い捨て用に作られた鍼)を使っています。
 寸とか番とかいうのは鍼の仕様のことで、前者は鍼の長さ、後者は鍼の直径を表します。
 1寸が30ミリ、寸3が40ミリ、寸6が50ミリ、2寸が60ミリです。
 2寸より長い鍼もないわけではないですが、特注品ではないかと思います。
 何年前だったか、ものすごく長い鍼「長鍼(ちょうしん)」を自作するとか何とか講習会や勉強会めいた案内が来たことがありましたが、はっきり言ってパフォーマンス以上のものではないと思い、臨床上必要だと思ったことが一回もなかったため参加を見送ったことがありました。
 番についてだと、1番が0.16ミリ、2番が0.18ミリ、3番が0.20ミリ、4番が0.22ミリ、5番が0.24ミリです。むかし8番の中国針を使ったことがありますが、これは直径0.30ミリということになります。
 一般的なシャープペンシルの芯の直径が0.50ミリなので、その半分以下の太さということになります。
 ステンレス鍼のディスポーザブル鍼と書きましたが、今はほとんどの鍼灸院、それこそ99パーセント以上の鍼灸院はステンレス製のディスポーザブル鍼を採用していると思います。安価で安全性が高いからです。
 世の中には銀鍼や金鍼というのがあります。それぞれ銀、金でできています。お値段も高い。
 今はどうか分かりませんが、わたしが鍼灸の専門学校に通っていた2005年(1年生)のときは、銀鍼でトレーニングをしました。鍼まくらという鍼の練習用のまくらに、銀の鍼を入れていくのです。50本で3000円だったと思いますが、相当高い。金鍼は銀鍼どころではありません。
 銀や金は、やわらかいため、痛みを感じにくい。そのかわり曲がりやすく、すぐダメになります。ずいぶん贅沢な練習でしたが、このおかげで、ステンレス鍼がとても打ちやすく感じられたものでした。
 金鍼になると、経営的にディスポーザブルにするのも難しい。それではどうするかと言うと、バーや居酒屋であるボトルキープみたいに、その患者さん専用の鍼にしてしまうのです。高圧蒸気滅菌で処理したものを繰り返し使います。これは金鍼でなくても、銀鍼やステンレス鍼でもいいわけで、要するに、患者さんの体に打つ鍼は衛生的でなければならないということです。ただ、わたしの同期で、いや同期に限らず、わたしの知る限り、高圧蒸気滅菌で鍼を繰り返し使っている鍼灸師はいません。一つ知っていますが十五年以上も前のこと、今もやっているかどうか。

(終わり)

2026.02.15

火曜日臨時開院のお知らせ 2026年2月17日(火)

2026年2月17日(火) 10~20時 臨時開院します。

2026.02.15

【鍼灸コラム】5 お稲荷さんと五行論 --日本文化の核となっている五行論--

第5回は趣向を変えて、稲荷信仰--お稲荷さんと五行論について

先日、図書館で『ものと人間の文化史39・狐 陰陽五行と稲荷信仰』(吉野裕子 著、法政大学出版局、1980)を借りました。副題の「陰陽五行と稲荷信仰」を見て、ちょうど鍼灸コラムを書いているところだし、これは何かの参考になるかもしれないと思ったからです。副題って大事ですね。

正直言うと、そんなに期待していなかったのですが、なかなかどうして、五行説について理解が深まったのはもちろんのこと、稲荷信仰の見え方が変わりました。

なぜ稲荷(異形・いなり)信仰が日本で発達したのか? どうしてキツネなのか?

吉野さんの説によると、五行で黄色は「土」を表し、「大地(耕地)」や「稲(穀類)」を表す。一方、日本に棲息しているアカギツネ(北海道に行けばキタキツネもいますが)の体表は「黄」色です。大地や穀物を象徴する色をした毛を生やしているキツネは、害獣でありながらも(もっとも、稲を食い荒らすネズミも食べてくれるので、一概に害獣とは言えないかもしれません)農業信仰の対象となるまでに格上げされていった……

わたしが五行論にあまり信用を置いていないのは、まさにこういう強引な結び付け方なのですが--科学的に、キツネがいるから豊作になるわけではないのは明らかです--文化的に見たとき、決して無視できない影響を与えている概念の一つであることも、また間違いないと思います。

吉野さんの説によると、お稲荷の鳥居がなぜ赤いのかも五行論で説明がつくそうです。
赤は五行説では「火」に相当しますが、前回お話しした五行の相生関係で「火→土 火生土 火は土を生ず」というのがありました。だから、キツネ=黄色=土に至る道の入り口は赤い鳥居=赤色=火でなければならないわけです。

お稲荷さんに限らず、日本の神社の鳥居は赤いものが多いですが、わたしは今まで、鳥居のほとんどが太陽を仰ぐように南向きに立てられているかではないかと思っていました。というのも、方角の「南」は五行では「赤」を表すからと理解していました。ちなみに、「北」は「黒」、「東」は「青」、「西」は「白」、「中央」は「黄」になります。
でも、お稲荷さんの影響もあるのかもしれないなと思いました。日本にある神社の三分の一はお稲荷さんなんだそうです。

話は変わって、やはり農業大国だった中国では「狐の三徳」という考えがあったそうです。狐が貴いのはなぜかという三つの理由ですが、

(1)「色が中和(黄色)なのがよい(「黄」は方位では「中央」を表し、何があっても中庸でいようとする精神の貴さを表した色をしている)」
(2)「前が小さくて後ろが大きい(自分のことより後世のことを考える大切さを体現したような体形をしている→ここから瓢箪を二つに割ったものや北斗七星などとも関係づけられるようになります)」
(3)「死ぬときは必ず丘(ふるさと)に帰ってくる(本当に大切な場所はどこか心得ている)」

他にも、狐にだまされるお話で、化かされたことが分かったときに馬のお尻を眺めていたという話が多いのはなぜか、とか、白い狐と黒い狐が珍重されるのはなぜか、とか、稲荷信仰が商売繁盛とも関わりがあるのはなぜかといったことも書かれていて、なかなか面白かったです。

本当に、鍼灸コラムを書いていなかったらこんなに身を入れて読んでいなかったと思いますし、そもそも借りることもなかったかもしれません。
ご縁というのは不思議なものですね。

以上、他人のふんどしで相撲を取ってみました。あなたもどうですか。

(終わり)

2026.02.14

土日開院のお知らせ 2026年2月14日(土)・15日(日)

2026年2月14日(土)・15日(日)
10~20時開院します。

2026.02.10

2026年2月10日(火)・11日(水祝)臨時開院のお知らせ

2026年2月10日(火)

2026年2月11日(水祝)

10 〜20時臨時開院します。

2026.02.10

【鍼灸コラム】4 インクルーシブ(包摂的)な五行論 -現代において五行論から学ぶべきこと-

第4回は「インクルーシブ(包摂的)な五行論」について。

五行論を簡単に言うと、「宇宙は「木(もく)」「火(か)」「土(ど)」「金(ごん)」「水(すい)」の五つのタイプに分類することができる」とする古代中国の思想です。陰陽論と同じく、東洋思想や、これをベースとする東洋医学において欠かせない概念になっています。五行論と陰陽論を合わせて「陰陽五行論」「陰陽五行説」と言うことも多いです。

五行論の大きな特徴は「配当(分類)」「相生(そうせい)・相剋(そうこく)関係」「母子関係」の三つです。
(「相生(そうせい)・相剋(そうこく)関係」の変形として「相乗(そうじょう)・相侮(そうぶ)関係」があったりするのですが、ここでは割愛します)

 (1)配当 あらゆる概念や物は「木」「火」「土」「金」「水」のいずれかに所属するという考え方です。
 (2)相生 木から火をおこせる、火が燃え尽きれば灰(土)になる、という感じで、一つの五行が別の五行を生成する関係を表したものです。 木→火 火→土 土→金 金→水 水→木 と循環します。
 (3)相剋 木は土をおしのけて生える、火は金属を熔かす、という感じで、一つの五行が別の五行を抑制的に制御する関係を表したものです。 木→土 火→金 土→水 金→木 水→火 と循環します。

 (2)(3)については、前回お話ししたフィードバックを連想させます。相生が正のフィードバック、相剋が負のフィードバックというわけです。
 
 さて、わたしたちは、この五行論から何を学ぶべきなのか。
 個人的には、二つあると思います。
 一つは、すべては五行のどれかに所属する、仲間はずれになるようなことはない。宇宙とはそういうものだという、世界のサステナブルなありよう。
 もう一つは、「森羅万象において、『完全に孤立した状態』というものはない、もしそれが現出するとしたら、それは不自然なのだ」という、インクルーシブ(包摂的)でインタラクティブ(相互作用的)な状態が自然であるという自然観だと思います。
 これはとても魅力的で、いったん個人という単位まで分解し、それを組み直すことでよりより社会を作っていく西洋の考え方の対極にあります。分類はしても、分解してはいけない。わたしは社会の中のわたしから逃れられず、わたしでないひとたちとの関係性をよりよい、自然な状態に保つことを要請しているわけです。
 わたしの五行論に対する違和感は「五行の配当」という恣意的な分類にあります。思弁的な傾向が強まり、さらにそれを検証する文化が育たなかったため(特に東洋においては、古ければ貴い、古いものは正しいという考えが根強くあるように感じます。「亀の甲より年の功」ということわざがありますが、一面の真実を含んでいるとは言え、古いから正しい、偉いひとが言っているから正しいと批判的思考を封じ込めてしまったのは残念だったのではないかと思います。結果、現代の自然科学から見ると荒唐無稽の類にまで堕ちてしまいました。
 とは言え、古代中国のひとたちが作り上げてきた五行論には、バランスを重視するという、非常に大事な考えがこめられていると思います。一つだけに偏ることの恐ろしさ、自己批判を余儀なくされる緊張関係や競争がなくなるとあっという間に腐敗するということを歴史から学んできた成果の一つではないかとさえ思うときがあるのです。

(終わり)

ハリー鍼灸院について

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