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2026.01.30

【鍼灸コラム】3 陰陽論とサイバネティクス -ネガティブ・フィードバックで「ちょうどよく」-

第3回は「陰陽論とサイバネティクス」について。

前回(第2回)の復習も兼ねて。
陰陽論は、「宇宙は陰と陽とに分かれている」とする古代中国の思想であり、東洋医学の根幹をなす概念の一つで、次のような性質があります。

 (1)陰陽互根 陽があれば陰があり、陰があれば陽があるというように互いが存在することで己が成り立つ考え方
 (2)陰陽制約 陰陽が互いにバランスをとるように作用する。陽虚すれば陰虚、陽実すれば陰実す、というように。
    (虚するは「勢いが弱くなる」、実するは「勢いが強くなる」ととらえてもらえばOKです)
    ◆陰陽制約は提携律とも言います。
 (3)陰陽消長 陰陽の量がダイナミックに変化していくことです。陽虚すれば陰実、陽実すれば陰虚す、というように。
    (虚するは「勢いが弱くなる」、実するは「勢いが強くなる」ととらえてもらえばOKです)
    ◆陰陽消長は拮抗律とも言います。
 (4)陰陽転化 陰陽の質がダイナミックに変化していくことです。陽極まれば無極を経て陰に転化し、陰極まれば無極を経て陽に転化す。
    ◆陰陽転化は循環律とも言います。
    〇たとえば、地球でずっと北に一直線に進むといつかは北極点に到達し、そこからさらに一直線に進むと南に向かってしまうようになるようなものです。
 (5)陰陽可分 陰陽それぞれのな中に様々な段階の陰陽があるということ、陽中の陽、陰中の陽、陽中の陰、陰中の陰というように
    ◆陰陽可分は交錯律とも言います。

 陰陽論とは、宇宙は絶えずダイナミックにバランスを保っている、宇宙はバランスを保つために絶えずダイナミックに運動しているという、自然の周期性と運動性に言及した思想と言えそうです。
 
 
いったん話題を変え、今回は、このコラムのタイトルにある聞きなれない言葉、「サイバネティクス(cybernetics)」について説明します。サイバネティクスはギリシャ語の「キュベルネーテース」(「船の舵を取る者」)からきているそうですが、20世紀アメリカの数学者、ノーバート・ウィーナー(Noebert Wiener)が1948年に提唱した概念で、「フィードバック制御」という概念を適用することで、通信工学や神経生理学、さらには心理学や社会科学まで、同じような議論が可能になるという、「現代の陰陽論」のようなもの考え方です。
 フィードバック(feedback)というのは、「系の出力を入力にへ戻す操作」のことですが、たとえば業務改善や品質改善を行うマネジメント手法としてよく知られているPDCA(Plan→Do→Check→Action)の「C→A」の部分に相当します。分かり易い例で言うと、学生時代、英語の授業の始めに行われる(学校によるのかな?)英単語の小テストや受験の模試などは、学習のフィードバックを促すツールとして多用されます。受験勉強に限らず、各種のコンクールや就職試験の面接などもそうかもしれません。よく、年長者が「枯れ木も山の賑わい」と謙遜とも自嘲ともつかないことを言いますが、山を賑わせることができるには一定の人生経験、人付き合いのフィードバックをこなしていることが必要でしょう。何によらず、「傾向と対策」や「場慣れ」は、フィードバックを組み込む効用を示していると思います。
 そんなフィードバックには、「正のフィードバック」と「負のフィードバック」という二つの方向性が働きます。前者はさらに増幅させようとし、後者は減衰させようとする働きです。
 生体内では、「負のフィードバック」が働くことが多いように思います。たとえば、血圧が必要以上に上がってしまったとき、生体は「血圧をもっともっと上げてやれ(正のフィードバック)」をせずに、「上がり過ぎている血圧を下げてちょうどいいところまでもっていこう(負のフィードバック)」とします。
 一方「正のフィードバック」は、たとえば「痛みの悪循環」と呼ばれる生理現象が当てはまるのではないかと思います。痛みや炎症反応は体にとっては問題なので、痛みや炎症反応がおさまるまでは脳や周辺の組織に、痛みを持続させるよう種々の化学物質や電気信号(神経細胞の伝導・伝達)を活性化します。直感的にはにわかに信じがたいかもしれませんが、実際はこういう「もっと、もっと」という正のフィードバックが起きています。目的論的に言えば、生体内レベルで「正のフィードバック」を動かすことで、個体レベルでは負のフィードバックを促しているのではないかと思います。たとえば痛いときは動きを止め、炎症で熱を持っている部分は氷冷(アイシング)による鎮静化を試みます。
 ここまで説明すれば、鍼灸(特に鍼)施術の存在意義も分かるかと思います。それは、生体にとっては必要だが生活の質(QOL)の維持には好ましくない、「痛みの悪循環」という生体内の「正のフィードバック」に介入する技法なのです。
 
 前回も書きましたが、すべては「ちょうどいい」を目指します。「ちょうどいい」状態を知っているからこそ、いろんなメカニズムが働きます。病理学を勉強する前に生理学を勉強しなければならないのはこのためです。正常が分かっていないのに異常について議論できませんから。
 このメカニズムは、数億年、一部においては数十億年という気の遠くなるような時間の中で行われた、これまた気の遠くなるような膨大な試行錯誤によって獲得された機能です。わたしたち鍼灸師を含む医療従事者は、多くのサイバネティクスによってホメオスタシスが保たれている生体の、ほとんど神秘と言ってもいい繊細な機構をよく認識した上で、生体に向き合わなければならないと思います。

(終わり)

2026.01.23

【鍼灸コラム】2 陰陽論とホメオスタシス -ダイナミックに「ちょうどいい」を目指す-

第2回は「陰陽論とホメオスタシス」について。

陰陽論を簡単に言うと「宇宙(森羅万象)は陰と陽とに分かれている」と考える古代中国の思想です。東洋思想や、これをベースとする東洋医学において欠かせない概念になっています。

 この陰陽論、ただ陽と陰とに分かれているというだけではなく、いくつかの独特な特徴があります。

 (1)陰陽互根 陽があれば陰があり、陰があれば陽があるというように互いが存在することで己が成り立つ考え方
 (2)陰陽制約 陰陽が互いにバランスをとるように作用する。陽虚すれば陰虚、陽実すれば陰実す、というように。
    (虚するは「勢いが弱くなる」、実するは「勢いが強くなる」ととらえてもらえばOKです)
    ◆陰陽制約は提携律とも言います。
 (3)陰陽消長 陰陽の量がダイナミックに変化していくことです。陽虚すれば陰実、陽実すれば陰虚す、というように。
    (虚するは「勢いが弱くなる」、実するは「勢いが強くなる」ととらえてもらえばOKです)
    ◆陰陽消長は拮抗律とも言います。
 (4)陰陽転化 陰陽の質がダイナミックに変化していくことです。陽極まれば無極を経て陰に転化し、陰極まれば無極を経て陽に転化す。
    ◆陰陽転化は循環律とも言います。
    〇たとえば、地球でずっと北に一直線に進むといつかは北極点に到達し、そこからさらに一直線に進むと南に向かってしまうようになるようなものです。
 (5)陰陽可分 陰陽それぞれのな中に様々な段階の陰陽があるということ、陽中の陽、陰中の陽、陽中の陰、陰中の陰というように
    ◆陰陽可分は交錯律とも言います。

 陰陽論とは、宇宙は絶えずダイナミックにバランスを保っている、宇宙はバランスを保つために絶えずダイナミックに運動しているという、自然の周期性と運動性に言及した思想と言えそうです。
 
 
 いったん話題を変えて、このコラムのタイトルに出てきたもう一つの聞きなれない言葉、「ホメオスタシス(homeostasis)」について説明します。
「生体の恒常性」と訳されることが多いですが--もとはギリシャ語の、homeo(同じ)とstasis(状態)を合わせたものです。英語だと、前者はhomo-(同じであること)、後者はstatus(状態)に相当します--、生物が持つ基本的な生体維持機能のことです。
 ホメオスタシスが備わっているから、わたしたちは外部環境の変化に適応できます。実際、外部環境の変化に応じて、体温、血圧、血糖値、ミネラルのバランスやホルモンの量、さらには免疫機能(白血球やリンパ球の数、インターロイキンの濃度など)はダイナミックに最適化されています。
 病気とは「ホメオスタシスの機能低下」、死とは「ホメオスタシスがまったく維持できなくなった状態」と言えなくもありません。


 話が少し脱線しますが、特に救急時に、わたしたち医療従事者がまず調べる「バイタルサイン」は体温、血圧、脈拍、呼吸数、意識の有無です。このうち、前の四つは自律神経が支配しています。ホメオスタシスを実現させる自律神経の働きが残っているかどうかを調べているわけです。

 ここで、陰陽論に戻ります。
 陰陽論もホメオスタシスも、本質的に同じことを言っていることにお気づきでしょうか。血圧が上がったら下げようとする。血圧や血糖値が上がったら下げようとする、ミネラルが少なくなりそうなら汗や尿からの排出を抑える、等々。
 東洋医学では、さまざまな生化学的指標(量)についてはそれほど詳しく調べません。五感で判別できる程度の精度です。一方、西洋医学では生化学的指標(量)も厳密に調べます。ナノグラムとかピコグラムとか、よくそんな少量のものを測れるものだと感心します。西洋医学は東洋医学ほど雑ではありません。ただ、その雑なところもある東洋医学は、HbA1cなどを測定する必要がない分、安上がりで手っ取り早いという利点はあります。また、たとえば二人の中年男性のHbA1cがそれぞれ7.1と7.3だったとして、7.1の方がまだ好ましいのは確かですが(どっちにしても糖尿病ですから)、HbA1cの数値が0.2違うと何がどう影響するのかと問われると、意外と答えられないのではないでしょうか。結局「7.1の方が7.3よりはいい、7.3のひとは7.1のひとよりは生活習慣を厳しく見直した方がいいだろう」程度で終わってしまう気がします--ちょっと意地悪な例ではありますが。
 薬なども、画期的な新薬が日々開発されていますが、やっていることは意外とシンプルで、たとえば高血糖の患者が服用する薬は血糖値を下げるものと相場が決まっています。畢竟、洋の東西を問わず、医学とは、生体で起きている何かの過不足を「ちょうどいい」ところまで調整する技術であると言えそうです。

 とは言え、やはり西洋医学は偉大です。鍼を打つよりも血圧降下剤を服用する方が血圧は下がりますし(下がらないケースもありますが、鍼施術を受けるよりは下がりやすい)、お灸をすえるよりも抗生物質や抗ウィルス薬を投与する方が感染症治療の勝負が早い。これは素直に認めなければならないでしょう。

 その上で、東洋医学と西洋医学をバランスよく取り入れることで、QOL(生活の質)をよりブーストできるのではないかと思います。

 話が脱線しますが(脱線が多くて恐縮です)、少年時代に読んだ「NHKきょうの料理」という料理雑誌に「和食は塩分は多いが脂質が少ない、洋食は塩分は少ないが脂質が多い、中華は油を使って手早く調理できる(注:ただし塩分も脂質も高い)。一日の献立で上手に組み合わせましょう」といったようなことが書いてあって、なるほどと感心したおぼえがあります。和食一辺倒、洋食一辺倒、中華が出なければちゃぶ台ひっくり返してやるというのではなく、バランスよく組み合わせることで、栄養学的にも食事の楽しさとしても質の高い食生活が実現できるというわけです。参考までに。

(終わり)

2026.01.15

【鍼灸コラム】1 鍼はなぜ体にいいのか? -大久保適斎と代田文誌-

今年から、鍼灸についてのコラムを書きます。どうぞおつきあいください。

第1回は「鍼はなぜ体にいいのか?」。

鍼とは何かを簡単に言うと--わたし(本木晋平)の個人的理解です--、「鍼灸施術用の針金を皮膚に刺し入れて物理的な刺激を与えて反射を起こすことで自律神経をトレーニングし、あるいは反射とは別のメカニズムで鎮痛を試み、もって体の不調(特に不定愁訴)を和らげる、物理療法およびリラクゼーション技法の一つ」です。自分で言いますが、大きく間違っていないだろうと思います。

さて、わたしの手元に、「鍼治新書 治療篇 全」(大久保適斉(ママ) 著、代田文誌 原本所持及び解題、医道の日本社、1973)という本があります。 

明治時代に大久保適斎という医師が上梓した、東洋医学の「と」の字も出ない、解剖生理学に則った鍼灸施術の理論書です。(わたしに言わせれば、思い込みが強いかな? というところも多々あるのですが、MRIはおろか、X線(レントゲン線)も発見されていなかった頃に書かれた本ということもあり、仕方がないかと思うところもあります。ちなみに、X線の発見は1895年、「鍼治新書 治療篇」が自費出版されたのは明治25年、1892年です」)

この本の解題を務めた代田文誌は「解題 大久保適斉(ママ)著 鍼治新書(治療篇)再版について」の中で、実に興味深いことを書いています。

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(略)要するに彼れ(引用者注:大久保適斎のこと)の針治療の臨床的観察によれば、

 1、神経変常の調節作用、

 2、疼痛痙攣の鎮静作用、

 3、知覚脱失や麻痺の回復作用、

が針治の臨床的な効果の主要なものであるというのである。その見解は、近代医学的であり、治療学的である。したがって、本書は明治初年の著書ではあるが、現代のわれわれにとっても、臨床的に役に立つ書物であり、彼れの説はあまたの示唆に富んでいるのである。

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 後出しじゃんけんみたいで恐縮ですが、初めてこの解題を読んだとき、「はりねずみのハリー鍼灸院」を2015年に開業して以来、鍼施術の効果について密かに考えて続けていたことをあっさり言われてしまったと悔しくなったのを思い出します。

 鍼はなぜ体にいいのか。それは(1)神経の走っている周囲の筋肉を緩めることで痺れを軽減させられるから(椎間板ヘルニア、坐骨神経痛など)、(2)鎮痛効果を期待できるから(ぎっくり腰、首の寝違え、初期の五十肩など)、(3)反射を起こして血流を良くすることで神経や筋肉の機能回復(リハビリテーション)を促進させることができるから(脳梗塞の後遺症やスポーツ傷害のリハビリテーションなど)だと、わたしも思っています。

* * *

 ホームページの「プロフィール」にも書きましたが、わたし(本木晋平)は、大久保適斎のように西洋医学的なアプローチを試みています。東洋医学を支える東洋思想--主に陰陽五行論--に基づいた施術は行っていません。

 別のコラムであらためて書くことになるかもしれませんが、個人的に、陰陽論は現代においても結構適用できると思う一方(たとえばホメオスタシス(生体の恒常性)やサイバネティクス(通信と制御を統合させて考える理論)などと非常に親和性が概念です。これについてはまた後に書くことになるかと思います。今は用語の意味が分からなくても構いません)、五行論は思弁的に過ぎる、思い込みが強すぎると思っています。ただ、五行論が出てくる気持ちというのか事情については理解できないでもありません。方位と天体に合わせたという説があります。方位は「東・西・南・北+中央」(「中央」を入れるところが、いかにも中華思想を持つ古代中国らしいと思ってしまいます)、天体は、古代に肉眼で見えた五つの惑星「水星・金星・火星・木星・土星」です。

 話を戻して、西洋医学的アプローチのみで施術をする鍼灸院は、まだ少数派だと思います。その分独自性も出せていると思うのですが、やはり不安です。そんなとき、大久保適斎の「針治新書 治療篇」は精神的な支えになってくれています。わたしにも鍼が打てなくなる日は来るでしょうが(考えたくもありませんが)、それまで同書がわたしの座右の書の一つであり続けるであろうことは間違いありません。(終わり)

2026.01.06

2026年1月の休診のお知らせ

2026年1月は

13日(火) 休診 

27日(火) 休診

他は、土日祝、火曜日も、10~20時開院しています。

2026.01.01

新年のご挨拶 2026年

あけましておめでとうございます。

本年も、はりねずみのハリー鍼灸院のご愛顧をよろしくお願い申し上げます。

「松無古今色(松に古今の色無し)」という禅語があります。

時の移り変わりや世の中の情勢に左右されず、不変の真理や本質を保ち続ける。

これからも、西洋医学に立脚した、施術理由をクリアに説明できる鍼灸を究めていきます。

今年は、鍼灸や健康に関するコラムを書いてみようと思っています。応援よろしくお願いします。

「この問題について書いて欲しい」というリクエスト、大歓迎です。

2026年1月1日

はりねずみのハリー鍼灸院 本木晋平

ハリー鍼灸院について

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